Hotel FranQ
Belgium
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石畳のアントワープ市内は、どこか懐かしくもあり賑やかな町並みだ。ナビに案内され、細い小道をゴトゴトと車を揺らしながら入っていくと、厳粛な佇まいの建物が現れた。“Hotel Franq”と書かれた、美しい看板が下がっている。
重厚な表玄関と高い天井高の大広間が、かつて銀行だった面影を色濃く残す。広間は天窓から差し込む光に満ち、ポップな色合いの家具がオシャレに並んでいる。歴史ある建物とモダンな家具のコントラストが、何とも素敵だ。
エレベーター前のホールだけ壁がボルドー色に塗られ、ディスプレイ棚が置かれている。特段目的を持たない空間づかいにこそ、ホテルのセンスを感じる。
この日はドイツからの団体客が到着しており、ロビー周辺はいつもに増して賑やかだった。1Fホールの奥はカフェ兼ライブラリーで、一歩ステップを上がるとレストランになっている。
案内された部屋は、とにかくシンプルな印象だった。居室、バスルームともホテル特有の備品や案内がほとんど目につかない。物が多い部屋ばかりに滞在していると、何もない事に最初違和感を覚えるのだが、少し時間が経つと煩わしさのない快適さへと変わる。
そもそも、私は使わない物に溢れた空間が苦手な事を思い出す。チェックイン後最初にするのは、デスク上の必要無い物を、まとめて引き出しや収納に隠すこと。この部屋では、その作業すら必要なかった。
何かアットホーム感を感じさせるのは、床に貼られた無垢フローリングだ。日本人としてはすぐに靴を脱ぎ素足で歩きたくなる質感。表層が厚いので、重たいスーツケースや土足でも問題ない。
壁にはジャコメッティの写真がさりげなく飾られている。
バスルームは完全バリアフリーで、車椅子に乗ったままシャワーも浴びられる設計になっている。バリアフリーをここまでシンプルに出来るのは流石。難しく考えすぎることの多い世の『バリアフリー設計』に対する、静かな問いかけに映る。
そういえば先ほどロビーに到着したドイツ人団体客は60代~70代風だった。旅行意欲が旺盛なドイツ人リタイヤ層も、このホテルにとっては有望な顧客層なのかもしれない。
一階のレストランとカフェ、バー、フリースペースは間仕切り無く繋がっている。大きな音を立てるゲストが居なければ、こういったオープンな空間の方が、解放感がある。
レストランRestaurant FRANQは執筆現在、ミシュラン1つ星でTim Meuleneire氏によるフレンチ・ベルギー料理が堪能できる。ただの「ホテルのレストラン」では無いようだ。
ホテルの部屋は、自然体だけれど高級感を感じさせる素敵な空間だった。強いて言うと、バスタブが無いのは日本人には少し辛いかもしれない。その分シャワーブースを広めに確保しているので、使い勝手は良い。
ゲスト同士がコミュニケーションを図りやすいオープンな間取りは、気さくな土地の人柄を表している様に感じた。