かの有名な臥龍山荘から徒歩15分ほど。古き良き日本の風景が残る大洲の町並みに、静かに佇むホテルがある。歴史の深い邸宅をリノベーションし、ホテルとして蘇らせた“Nipponia Ozu”だ。

建物に入って最初に驚かされるのは部屋の入口。他のゲストとの共用玄関をくぐったすぐ右側に現れるのは、なんと座敷！その横には本日の部屋番号が。“まさか、このオープンスペースに寝るの？？”…と思いきや、預かった鍵で座敷横にある木の引き戸を開けると、客室へ続くアプローチが現れた。ほっとした。

玄関通路を抜けると昔ながらの和室が広がり、その先の障子を通して小さな坪庭が目に飛び込む。なんだか懐かしい、この感じ。

縁側をつたって、浴室と離れのトイレへと続く。
坪庭を見ながら和室でゆっくりとお茶を飲んでいると、ふと床の間の横に襖扉があることに気が付く。

“これはもしや？”

静かに開けると、なんと階段が！まるで忍者屋敷の様ではないか。童心に戻ったようにワクワク心が高鳴る。急な木の階段を、ミシミシ音を立てながら手すりを頼りに上りきると、そこは広く開放的な寝室になっていた。

広く開放的な窓からは、先ほどの坪庭と蔵が見える。（ちなみに、この蔵も現在は客室として使用されている）。ベッドの傍には２脚のロッキングチェアとローテーブルが控えめに置かれており、ゆらゆらと体を横たえながら窓からの景色を見ていると、なんだかタイムスリップしたような、不思議な気持ちになる。

Nipponia Ozuの特徴は、宿泊棟とレストラン・レセプション棟が別の場所にあること。元あった邸宅を移築することなくリノベーションしているため、まとまった場所に揃っていないのだ。ただいずれも徒歩圏内にあり、希望者には送迎サービスもあるので何も不自由さは感じなかった。
いや、むしろ少し距離があることで気持ちが切りかわり、新鮮さを覚えた。

予約しておいた夕食の時間になり、大洲城を一望できるレストラン棟へ。

レストランは照度を抑え、席の間も広めに取られた心地よい空間が広がっていた。
地産地消をコンセプトとするこのホテルでは、地元の食材を多分に使用したフレンチを提供している。失礼かもしれないが、夕飯付きで予約を入れた時はさほど料理に期待していた訳ではなかった。そもそも古民家に泊まれるだけでも貴重な体験なので、食事はついででいいか、という気分だった。
ところが開けてビックリ。『お、美味しい…！！』目にも美しく、食べて悶絶の料理が次々と運ばれてくるではないか。瀬戸内海で採れる魚介はどれも新鮮で、白と群青のコントラストを効かせた砥部焼きのお皿に、アートのように盛り付けられている。
いや～驚いた。この味とサービスであれば、レストランだけでも是非また来たい。（食事だけでも予約可）ちなみにメニューは季節に合わせて３か月おきに変わり、季節の食材に応じてシェフが考案しているとの事。納得！

絶品料理を堪能したあとは、再び送迎カーで宿泊棟へ。ヒノキ風呂の熱い湯に身を沈め、一日の疲れを癒す。主要な梁や柱、建具は昔のままに、水回りや居室空間は現代生活に馴染む様に設計されているのがわかる。

今回滞在して印象的だったのは、Nipponia Ozuと地域との緩いつながり感だ。これまでホテルといえば館内レストランなどを充実させ、地域とは断絶された空間となり、周辺の店にとっては客を奪われる様なかたちに見えることも多かった。Nipponiaは建物の佇まい然り、食事も地元食材を使うことにこだわり、スタッフの方もいずれは地元の方を増やしていきたいとのことだった。
正にハード・ソフトとも「地域と共にあるホテル」としての運営スタイルに、共感がもてた。