高層のショッピングモールが立ち並ぶ賑やかな上海の中心部を抜け、タクシーは美しい植栽の見える小道へと右折した。”The Puli Hotel and Spa”―本日のホテルの看板が見え、期待が高まる。先ほどまでの喧噪を忘れさせてくれる、南国のリゾート地の様なエントランスに、車がするりと横付けされた。
印象的な石調のエントランスを抜けると、劇的に風景が変わる。天井まで続くガラスの窓から、隣地の緑が気持ちよく目に入る。長いカウンターが細長い空間の奥へと続く、ここがメインロビーだ。ゲストはゆったりと椅子に腰かけ、奥の緑に目を休ませながらチェックインを済ませる。
カウンターの左側にはドリンクを楽しむゲストがいる。受付カウンターの並びで奥はカフェ・バーとして使われており、いわゆる「フロント」的な堅苦しさはない。
メインロビーは屋外のレストランへと緩く繋がっており、楽しそうに食事している人々の気配を感じつつ、チェックインを終える。

部屋に通されると、イチョウ模様に切り抜かれた木製の間仕切りが現れる。間仕切りを通して屋内を見せるとは、なんと心憎い演出だろうか。
足を踏み入れ、まず驚くのがバスルーム空間の広さ！部屋全体の３分の１を占めるのではないかという面積だ。テレビが格納された支柱からスライド式の引き戸が現れ、バスルーム部分と居室部分を簡単に区切ることができる。
水回りゾーンは、中央のクロークを挟んで両サイドに浴槽エリアと洗面・シャワー・トイレエリアが配されている。中央にドライ空間があることで「水回りらしさ」が上手に消され、美しく居室に溶け込んでいる。

スタンド式の洗面はオブジェの様で美しい。使い勝手として物の置きにくさは気になるが、これも意匠へのこだわりが強いゆえだろう。洗面前のミラーはサイドに間接照明が埋め込まれていて、取っ手を回転させると照明の角度を微妙に変えることができ、気が利いている。
バスタブの横壁には上海で特徴的な茶色いレンガがあしらわれ、地域感を程よく演出。贅沢なバスタブ用ボルスタークッションに頭をあずけ湯舟に入ると、広い窓からは上海の美しい夜景が一望できる。・・・というのは事実なのだが、実際はオフィスビルが前にあり、ブラインド全開だとこちらの景色が見えてないのかしら？と少しドキドキした。

ベッドルームには大きめのテーブルと一人掛けソファが２つ。仕事をするにも、軽く食事をするにも丁度良い大きさのテーブルだ。

館内のフィットネスで少し汗を流した後はプールへ。高級感ある落ち着いた色のデイベッドがプールサイドに並んでいる。ガラス窓側はインフィニティになっており、柱の間にテンポよく配置された壺のオブジェとランタン調の赤い照明器具が、フィットネスにありがちな“元気さ”の様なものを上質さへ置き換えている。
デイベッドに寝転ぶと、水盤越しに見える隣地の緑が美しい。上海の一等地にいることを完全に忘れさせてくれる癒しの空間となっている。